2016年12月14日水曜日

ニャオニクス姉弟《下》 ウルガモスさんの贈り物

「姉さん……?」

ボクは小さな声で呼びかけたけど返事がない
……寝ちゃったみたい。

その晩、ボクと姉さんは
ウルガモスさんのいるロイヤルスイートルームに泊めてもらう事になったんだけど
ボクはなかなか寝付けなくて、ぼんやりしていた。

ついに念願のカプ・テテフに会える
そう思うと興奮のあまり、目がぱっちりと覚めちゃうんだ

「ちょっと外の空気を吸おう。」

ボクは姉さんの眠りを妨げないよう
そっとベッドから起き、足音を立てないよう靴も履かないまま裸足でリビングに出た

カーテンの向こうからふんわりと月の光が差し込んで
リビングは深い青色に染まっていた

「イタっ!」

歩いていると何か堅い物体につま先を思いっきりぶつけた
ボクは痛くてたまらず、涙が溢れた

ぐっと痛さをこらえ、ボクは得意な「火」の魔法で目の前の空間を照らしてみた。

ぶつけたのは何とさっきまでボクと姉さんが
座っていたソファーの脚だった。

このまま歩くのは危ないと判断し、照明灯のスイッチがある場所を目で確認すると
ボクはさっと明かりを点けた

「いたた。これでもう大丈夫……」

ボクはやや涙ぐみながらも気を取り直して、ゆっくりと窓の方へ歩いた


窓を開けると、ほんのり冷たい夜の空気が流れ込んできた
ボクは窓から身を乗り出し、深く息を吸って吐いた

遠くの山脈を見ながら、ボクはウルガモスさんの言葉を思い出した

彼は教えてくれた……
「カプ・テテフ」はアーカラカラ山に住んでいると。

ボクと姉さんは明日、そこへ出発する。

とうとう会える……
マシェード叔母さんの遺した手紙のとおり、幻の存在カプ・テテフに。

ウルガモスさんが言うには、カプ・テテフは不思議な力の持ち主で
一緒にいるエスパーポケモンの「サイコパワー」を飛躍的に高めてくれるんだって。

ボクはふと思った

もしもそれが本当なら……
ボクと姉さんも、カプ・テテフに会う事で「サイコパワー」が強まるんじゃないだろうか?
そうなればボクたちは今よりも、遥かにすごい魔法使いになれる。

叔母さんの言うように「魔法の道を究める」事へも
つながっていく……

きっと、叔母さんは知っていたんだ
カプ・テテフの持つ「不思議な力」について

だからこそ手紙でボクたちに、カプ・テテフを探すよう言い残した。



だけどさ……

なぜ「魔法の道を究める」行為が、ボクたちの親を探す事へとつながるんだろう?
それが未だに分からない……

そもそも、もしも叔母さんが本当にボクと姉さんを
親のもとへ導きたかったのだとしたら
わざわざあんなミステリアスで、謎めいた文章を遺したりするだろうか?

ボクにはそう思えない……

ひょっとすると、叔母さんにはボクたちを親に逢わせるのとは別に、
何か「隠された目的」があったんじゃないだろうか?

叔母さんの真意が分からず、ボクは考え込んだ。

「或いは君たち二人を「強力な魔法使い」に育てたい……
そんな親心なのかもね。」

突然背後から声がきこえ、ボクはびっくりして飛び上がった
振り返るとウルガモスさんがいた

「リビングの明かりが点いていたのでね。様子を見に来たのさ
驚かせてしまったかな?」

ボクは首をぶんぶん横に振り、冷静さを装った。

ウルガモスさんはユラユラと静かに
ボクの隣へやってくると、窓の外を見上げてつぶやいた

「今宵はいい風が吹く。」

ボクはウルガモスさんにつられて外を見た
たしかに、夜風が気持ちいい。

「シルバ君……アーカラカラ山は険しい所だ
君たちが思っている以上にね。それでもやはり、行きたいのかな?」

ボクはちょっぴり不安になりながらも「はい」と頷いた。

「なぜ分かったんですか?
ボクが叔母さんの事で悩んでるって。」

考えてる事が見透かされたのが不思議になって、
ボクはたずねてみた。

ウルガモスさんはニコリと微笑んだ

「いや、そんな気がしただけさ。
親のことで悩む子供は、みんな「ああいう顔」をするものだからね。」

ああいう顔……ウルガモスさんはそう言った

一体ボクはどんな顔をしていたんだろう?


「そうだ。」

突然何かを思い出したように
ウルガモスさんは、一冊の本を取り出してボクに手渡した。

ボクは首をかしげながら、その本を手にとって調べた

本は全体的に色あせていて、あちこちがすり減っている。
もうずいぶんと昔の書物みたいだった。

それに「錠」がかけてあって
鍵を使わないと開かない仕組みになっているけど……

ボクは魔法の力を使い、あっさりと錠を開けた。


本を開くと、そこには「不思議な文字」がびっしりと書かれていた

「これは魔法文字……
じゃあ、この本って魔導書?」

魔法文字というのは、ボクたち魔法使いだけが操る事のできる特別な文字。

その文字を使って書かれた本は
「魔導書」と呼ばれている。

つまりこれは、昔の魔法使いが
ボクたち子孫のために遺してくれた書物って事だけど……
どうしてこんなものを、ウルガモスさんが所持しているのさ?

「ある商人から買い取った品だよ。ワタクシには内容がさっぱり分からなくてね
君になら読めるんじゃないかと思うのだが。」

ウルガモスさんは、ボクならこの本を読めると思っているみたい。
魔法使いのボクには内容が理解できると……

悪いけど……ボクだってチンプンカンプンさ。

魔法文字というのは数学みたいなもので
その魔法使いのレベルによって、理解できる範囲が決まっているからさ。

まだ半人前のボクにはこの本の内容は、レベルが高すぎてさっぱり。

何とか分かったのは……
この本の題名が「死者を生き返らせる秘薬」だという事ぐらいさ。

ボクはせめてその事を、ウルガモスさんに伝えた。

「死者を蘇らせる薬……か
ワタクシには必要のない書物のようだな」

ウルガモスさんはキハハハと笑った

「君のおかげで謎が解けた……
その本はワタクシからの餞別だ。持っていくといい」

その言葉にボクは目をぱちくりさせて
「いいんですか?」ときいた

「驚く事じゃないだろう。
本来それは、君たち魔法使いの所有物だからね。」

ウルガモスさんは大切そうに、ボクの抱えている本に触れた

「きっと……我々がここで出会ったのも、その本が引き合わせてくれたおかげなのだろう。
君たちの旅の成功を祈っているよ。」

彼は一冊の本を贈るとともに、ボクと姉さんにエールを送ってくれた。
色々とありがとう。ウルガモスさん


翌朝……
ウルガモスさんとメラルバ君に別れを告げ、ボクと姉さんは旅立った。

「カプ・テテフ」の待つアーカラカラ山へ……


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