2018年7月17日火曜日

霧の幽霊船《2-Zwei》 ケーシィ

僕のパパ、フーディンは世界中でホテルを経営してる大富豪で、
とっても偉いヒトらしいんだってさ。




……「らしい」っていうのはさ、
実の所、僕もパパの事をあまりよく知らないからなんだ。


いつもあちこち出張してて、滅多に帰ってこないし。

どれぐらい帰ってこないのかと言うと、
これまで僕は誕生日をパパと過ごした事が一度も無い……って言えば分かってくれるかな。

話した回数も数えるぐらい。

親子なのに。
笑っちゃうよね。

この広い屋敷には「執事」もいなくて、
ときどきハウスキーパーのキュワワーさんがきてピカピカに掃除してくれるだけ。

お金はたっぷりあるから、食べ物には困らないけれども。



この広い屋敷に僕はいつも一人っきり。

もう慣れてるけどね。












その朝……
僕はパンとミルクの朝食をとった後、
自分の部屋のベッドでゆっくりと大好きな本を読みふけっていた

ときたま「ふわぁ~」とあくびをしながら……

ある医学の本によれば、
《ケーシィ》というポケモンは
一日18時間以上、たっぷり睡眠をとるのが望ましいんだってさ。

理由はこう。
エスパーポケモンは普段、起きているだけでも膨大な「サイコパワー」を消費するから、
じっくり頭を休ませる必要があるんだってさ。

「そんなに長い時間、
毎日寝ていたら人生はあっという間に終わっちゃうよ。」

そんなの勿体ない……

僕はそれを知ってから、
なるべくサイコパワーを使わない生活を心掛けるようにしている。
睡眠時間が最小限ですむようにね。

具体的には、『ねんりき』を使うのは一日に一度までというルールを設定したり、
浮いたりせず自分の足で歩いたりするとかさ

「エスパーポケモンとしてどうなの?」という声が聴こえそうだけど、
それが僕の選んだ生き方なのさ

代償に、いつも「眠たい思い」をしているけどね。

「あーあ……神様はなぜ、
僕たちケーシィにこんなにも長い睡眠時間を要求するんだろう。
もっと起きて読書していたいのに……。」

目をこすりながら
僕はつい「ため息」をこぼしちゃった。

そのとき、チャリチャリンと
ドアの隣に設置してある"呼び出しベル"が鳴り響いた。

玄関に訪問者がきた事を知らせるサインだ

「誰だろう?」

お客なんて珍しいな……
ハハコモリさんかラクライかクマシュンかな?

僕は読んでいた本をパタンと閉じ、
ベッドから降りると、裸足を革スニーカーの中へ突っ込んでトントンと履いて、
その足で"呼び出しベル"の方へ歩き、それを手に取った。

「サマーズ家の長男、ケーシィです。」

僕は一応、丁寧に名乗った。
一人っ子だけどさ。

向こうは最初は何も言わず、
ひたすら「ハァハァ」と息を切らしているのみだった


でも、声の感じからクマシュンだと僕には分かった



「ケーシィ……!
来てほしいの!はやく!!」

クマシュンは慌てた感じだった
僕はただ事じゃないと思い、急いで玄関から外に出た

「クマシュン、何事?」

クマシュンは汗びっしょりで、
手でヒザをおさえながら苦しそうに息を切らしていた

何か"重大な事"が起き、それを知らせにきたのだと僕は察した。

「ラクライがね……
今朝、家出しちゃったの!!」

家出だって?
どうしてそんな事になったのさ?

「あのね!
ラクライがパパとね……
もうっ!とにかく来てほしいの!!」

詳しく事情を訊ねようとしたら、
クマシュンが僕の手を強引に引っ張って、僕は一緒に走るはめになった

僕、体力ないのに……。

クマシュンに無理矢理つかまれた僕は、
家の敷地から飛び出し、肌寒いフィヨルドの街をあちこち駆け回った

途中、僕たちが通う《クラル・ベルク校》も通り過ぎた

長い道のりの末、氷がぽつぽつ浮かぶ"運河のほとり"に着くと
やっとクマシュンは止まってくれた。

ようやく解放された僕は
体中汗びしょびしょで、息も絶え絶えになって芝生の上に倒れ込んだ

「もうダメ……」

こんなにたくさん走らされたのは、
マッシブーン先生の最悪のマラソン授業以来だよ……

まったく、クマシュンったら容赦ないんだから。


「大丈夫ー?もうついたよ!」

疲れて動けなくなった僕をクマシュンはゆすりながら
「あっちを見て」と指さした

僕は首を持ち上げ、クマシュンの言う方向を見た。

「あそこはねー。
ラクライの秘密基地だよー!」


そこには"あやしげな洞窟"がポカンと口を開かせていた



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