2018年7月24日火曜日

Chapter9:アイアンテール

俺とサニーゴはポケットタウンの郊外に広がる
薄暗い樹海を歩いていた

「ねえ。一体どこまで連れていく気なのさ?」

サニーゴが不満をこぼした

ぐふふ、黙って歩きな
とっておきの"絶叫スポット"に案内してやるからよ

鬱蒼と木が生い茂る荒っぽい道を
俺たちはたっぷり歩いた末、ポツンと立った一軒の「小屋」に行きついた

「何さ?この古びた小屋……」

サニーゴが小声で俺に聞いた

通称《怖いイエ》だ
昔からここにあるオンボロ小屋で、今は誰も住んでいない。

幽霊が棲みついてるとか"いわくつき"の場所で、
ときどき、床下から「ヒューヒュー」と不気味な音がきこえてくるんだってよ。

「オバケ出そうなんだけど……」

サニーゴは怖いのか、ちょっぴり後ずさりした

こいつ意外に怖がり屋なんだな
お前の求めるイチオシスポットに案内してやったんだから、もっと喜んだらどうだ?

言っとくがよ……
夜中のここの怖さはこんなもんじゃないぞ!
前にチビすけを連れてきたら、あまりの雰囲気と怖さでションベン漏らしたぐらいだぜ

「退屈してんだろ?
たんまりとスリリングな体験を味わわせてやるぜ!」

俺はそう言い放ち、嫌がるサニーゴの手を無理矢理引っ張った

キシシィ……と気色悪い音を立てるドアをくぐり、
俺たちは小屋に入った

「な、なぁーんだ……
大して怖くないじゃん!拍子抜けだね!」

サニーゴは精いっぱい強がったが、その顔は冷や汗ダラダラだ

「ほざけるのも今の内だぜ!」

俺は担いでた《Vボード》を床に置き、
部屋の端っこまで移動すると、思いっきりジャンプして床を踏んづけた

パキパキッ!と嫌な音を立てて床が大きく揺れ
サニーゴは「うわああ!!」と叫び、よろめき倒れそうになった

「ぐふふ……驚いたか!
この小屋はなぁ!床がすげぇ軋むんだ!」

こうやって床を踏みしめるとなぁ!
まるで地震のようにグラグラ揺れまくるんだ!

どうだ、最強にスリリングだろうが!

俺はジャンプしまくり、
サニーゴが「もうやめて!!」と涙ながらに訴えてくる様を眺めて楽しんだ

ぐふははは!
サイコーに愉快だぜ!!
いつもの強気な態度はどこへ行ったんだ!

このぐらいでビビるとは意気地なしもいい所だぜ!

「まだまだ!
次はもっと豪快に行くぜ!かはーっ!」

俺は調子に乗って大ジャンプした








がはっ……



着地した瞬間、
床が派手にカチ割れ、大きな穴がポッカリ口を開いた

「ぶげはーーっ!!!何だコリャーーー!!」

俺とサニーゴは崩落に巻き込まれ、真っ逆さまに落ちた






……


ぐ……ふ……


ここはどこだ……



俺は起き上がり、
ズキズキと痛む腰をさすりながら辺りを見回した

周りは岩だらけで、目の前をぽちゃぽちゃと川が流れてやがる。
どっかの洞窟ん中のようだな……

「気がついたかい?」

突然横で声がし、振り向くとサニーゴがむすっとした顔で座り込んでいた

「君さ、ずっと白目を剥いて失神してたよ?
あんな高い場所から落ちたのに、ゴキブリ並みの生命力だよね。」

高い場所から落ちた……だと?

そうか……
運悪く床が抜け、俺たちはその大穴に落ちたんだったな

「君が無茶苦茶したおかげでさ!」とサニーゴは嫌味っぽく言った

「う、すまねぇ……
俺が調子こいたばっかりに……」

くそったれ……
しかし小屋の真下にこんな空洞があったとはな……

アッサリ床は壊れるし、とんでもねぇ欠陥住宅だぜ!まったく!


「……さてと。ピチューも起きたし
さっさと外に出よっか!」

サニーゴは立ち上がり、パンパンと膝を払った

外に出るって……
お前、出口が分かるのか?

「川があるって事はつまり、
流れを辿っていけば外へ出られるって事だよ!」

サニーゴは自信たっぷりに言い放った
そういうもんなのか?

まぁ……どの道、ここで立ち往生してても仕方ねぇか

俺はサニーゴの言葉を信じ、
一緒にザブ、ザブと川の中を歩いて出口を目指した




水がやたらと冷てぇ……

自然の川の水がこんなに冷たかったとは知らなかったぜ。



「道が途切れてやがる!」

川の中を歩いてる内、俺たちは"行き止まり"にぶち当たった

おい、どういう事だサニーゴ
必ず外に繋がってるって言ってたじゃねぇかよ!

「きっとこれは、地震とかで天井の岩が崩れたんだよ。」

サニーゴはとくに取り乱す事もなく、
パシャパシャと俺の前に出て、じっくりと岩を観察した

「この岩さえ壊せば外へ出られると思うけど……
僕、それができるような"パワー系"のワザって持ってないんだよねぇ」

サニーゴは「ウーン」と困った顔をした

パワー系のワザか……

前に、大雨が降って落石事故が起きた時、
リザードンさんが『アイアンテール』で岩を粉々に壊した事をふと思い出した

「試してみるか」

俺はぐっと拳を握りしめ、バシャッと水の中から飛び上がると
シッポで力いっぱい岩をぶっ叩いた

岩はビクともせず、逆に激痛が走った

「あででで!畜生!!
この岩……死ぬほどに硬いぜ!」

だが、ここで諦める訳にはいかねぇ

この後、カプじいの誕生日パーティが待ってるんだ!
こんな所でモタついてたら遅れちまうぜ

俺は立ち上がっては、シッポで壁をぶっ叩き続けた

何度も何度も……




「ゼェゼェ……
くそったれ!何つー頑丈な岩だ!」

100発ぐらい叩き込んでんのにヒビすら入らねぇ
逆に俺の方がズタボロになっていた

片膝をつき、
疲れで意識がトびそうになりながら、
びくともしない岩を睨みつけ、俺は憎たらしい思いを滾らせた

たまるかよ……
たかが岩なんぞに阻まれてたまるかよ

俺は将来、リザードンさんみたいな強くてカッチョイイポケモンになるんだよ!

「こんな岩……
俺様のアイアンテールで叩き割ってくれるぜ!」

そう意気込みと共に立ち上がろうとした時、目の前がぐらっと揺らいだ

「倒れる……」
そう思ったら誰かが背中を支えてくれた。

サニーゴだった。

「あのさ。さっきから見てたんだけど……
もしかしてアイアンテールの撃ち方、知らないんじゃないの?」

撃ち方だと??

アイアンテールってのは、力任せにシッポで相手をぶっ叩くだけのワザだろ?
リザードンさんみたく強けりゃ岩も簡単に砕けちまう。

ただ、俺はまだまだ修行が足りないから悪戦苦闘してるだけで……

「違う違う!それじゃただの『しっぽをふる』だってば!
君、根本から勘違いしてるよ!」

がはっ!!
何だそのひでぇ言い草は……

ていうか……何か気づいたんなら見てねーで早く教えてくれよ!
俺がこんだけズタボロになる前によ!

「アイアンテールは強力な技だから、
撃つためには、たくさんの《Vウェーブ》が必要なんだよ。」

Vウェーブ?何だそれは?
俺が聞き返すとサニーゴはずっこけそうになった

「《Vウェーブ》っていうのは、自然界のエネルギーの事。
僕たちポケモンの力の源じゃないか。」

サニーゴは呆れたように言った

何だかよく分からんが……
どうすりゃそのVウェーブとやらを使えるんだ?

「そうだねぇ……意識を集中して、
周りに"金属の粉"が漂ってるのをイメージして。それをたっぷり吸い込むのをさ!」

俺は言われた通り、目を閉じて深呼吸した

「次はそれが全身に行き渡るのをイメージしてみて」

"金属の粉"をたっぷり吸い込んで、それが体の隅々まで行き渡る……
俺はそんな光景を思い浮かべ、浸ってみた

その時、俺のシッポがピカッと輝きだした!

「それだよ!
その状態こそアイアンテール!」

サニーゴが叫んだ

これがか……
力がドンドン沸いてくるぜ!!
今なら、どんな硬い岩だろうが軽々と砕けそうだ!

俺は確信と共に、輝く自分のシッポを思い切り岩へと叩きつけた!

岩は粉々に砕け散り、
破片となって、次々と川に沈んでいった



お……

おっしゃあ!!
ついにあの憎い岩を打ち砕いたぜ!!

見たかサニーゴ!
俺様の華麗なる『アイアンテール』をよ!

俺は無我夢中でサニーゴに駆け寄り、その両手をぎゅっとつかんだ

「お前の助言のおかげで、
アイアンテールを習得できたぜ!あんがとよ!!」

サニーゴはちょっぴり戸惑ったように
目をパチクリさせた後、やや顔を赤くしながら視線を逸らした。

「と、とにかくさ……!
これでやっと外に出られる!やったねピチュー!」

おう!!




ウッ……!

喜びも束の間、
シッポに激しい痛みが走った

よく見ると、じんわりと血が染み出していた

「無理ないよ……
あれだけの力を出したんだから
君の体はもうとっくに"限界"を超えていたんだよ!」

サニーゴの言葉と、
血まみれになったシッポを見て俺は唖然とした

これが強力な技を使ったための"代償"ってやつなのか……


「とりあえず止血しなきゃ!
どっかに"布"みたいのがあればいいんだけど……」

布か……

ん?待てよ!

俺はある事を思い出し、ポケットをゴソゴソと漁った

出てきたのはさっき商店街で買ったタオルだった
川の水でビショ濡れになったそれを、がっつりしぼって自分のシッポに巻いた

「また、カプじいに助けられたな……」

カプじいにプレゼントするために買っておいたタオルが、
俺の窮地を救ってくれた。

「これでよし……」

とりあえず応急処置は済んだ

俺とサニーゴは再び出口を目指し
砕けた岩の破片をまたいで、川の中を突き進んでいった


サニーゴの言う通り、やっぱ川は洞窟の外へと繋がっていた
しばらく歩いてる内に外へ出られた

「もう夕暮れか……」

すっかり空が「真っ赤」に染まっていた
俺は何ともいえない開放感を感じ、両手を伸ばして深呼吸をした










何気なく、ふと"反対側の空"を見た俺は
ある事に気づいた……

その時、全身に戦慄が走った

「違う……これは"夕暮れ"なんかじゃねぇ!!」

反対側の空は深い青に染まってて、星がキラキラと輝いていた
夕暮れじゃなくて、夜になっていた。

真っ赤に染まっていたのはごく一部の……狭い範囲の空だけだった

「ポケットタウンが……燃えている!?」


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