ニャオニクス姉弟 カプ・テテフを求める旅《上》

これは魔法使いの姉弟、
グリモワールジョバンニの物語・・・









ニャオニクス姉弟 カプ・テテフを求める旅

《序章》 マシェード叔母さんの手紙

アルバイトから戻ったボクと姉さんは

倒れるように、宿屋のベッドに仰向けに横たわった。

「はぁ……もう一歩も動けませんわ」

「ボクも……」

それもそのはず……

朝から晩まで、ずっと街でビラ配りと新聞配達をしていたからさ。

お駄賃もたくさん頂戴したけど、

一日中駆け回ったおかげで、ボクも姉さんも足がタコだらけ。
くたくたで、ほとほと疲れちゃった。
靴を脱いだばかりのボクと姉さんの足から、何とも言えない香ばしい匂いが漂う。

ボクはたまらなくなって涙が出た。

もっと魔法が使えたら、こんなに苦しい思いをしなくてすむのにね。

姉さんは涙が止まらないボクの手を握り、ボクの顔を見て微笑んでくれた。

ボクも姉さんの手をぎゅっと握り返した。

「おやすみ、グリモ姉さん……」



ボクたちは「ふたごのニャオニクス」。

姉のグリモワールと、弟のボク……ジョバンニの姉弟(きょうだい)さ。

ボクと姉さんはあるポケモンを見つけるために、

二人でずっと旅をしているのさ。

そのポケモンとは……

伝説といわれる幻の存在「カプ・テテフ」。



始まりは半年前、叔母さんからの「贈り物」がきっかけだった。


ロータという美しい湖畔の国で、

ボクと姉さんの二人は「魔法使い」のマシェード叔母さんと暮らしていたんだけど
その叔母さんが急に亡くなって、いくつか遺品が手渡された。

それは……ボクたちの「両親」について知るための

数少ない手がかりを記すものだった。

そう、ボクと姉さんには親がいない


叔母さんが言うには、二人はボクたちが生まれてすぐ

どこかへ「旅立った」んだってさ。
だからボクも姉さんも、親についてはほとんど何も知らない。

ただ一つ分かっている事と言ったら

二人とも、古くから続くボクたち「魔法使いの一族」の中において、
過去に類を見ないほど傑出した、特別な才能の持ち主だったらしい事ぐらい。

そんな二人と比べるとマシェード叔母さんは

何でもない、普通の魔法使いだったらしいけどさ
ボクと姉さんに魔法を教えてくれたのも……あの人だったんだ。

「魔法はポケモンの生活を楽しくて、豊かにするためのもの。

決して争いごとの道具じゃない。ワザと一緒よ。」

というのが叔母さんの考えであり、口癖だった。


ボクと姉さんはそれ故に、あまり強くてキケンな魔法は教えられず、

今のところ使えるのだって火を点けたりや、
水を滴らしたり、カギを開けるといった簡単なものばかり。

それでもボクと姉さんは、

優しいマシェード叔母さんが大好きだった。

半年前に病気で亡くなると、ボクと姉さんの手には「三つのもの」が遺された。


一つは叔母さんが住んでた家

それから一枚の写真と、一通の手紙

写真にうつってたのは……若りし頃のマシェード叔母さんと

ボクたちにそっくりな二人の子供の姿だった。

ボクと姉さんは直感的にそれが、幼いころの親であると分かった。


手紙の方にはこう書かれていた


「親の行方が知りたければ、魔法の道を究めろ。

そのために……カプ・テテフというポケモンを求めよ。」

叔母さんがなぜ、最後にこの2つを遺してくれたのかは分からない

だけどボクと姉さんはそこに
何か強い「メッセージ」のようなものを感じ取ったんだ。

親愛なる叔母さんがボクたちに伝えたかったコト


それを知るためにボクと姉さんは、

手紙に書かれた「カプ・テテフ」というポケモンを探す事に決めた。

だけどそれは……

思ったほど楽な道のりじゃなかった。

その日からボクと姉さんの、長くて過酷な旅が始まったんだ。






《上》あるお金持ちの紳士

翌日、旅の費用を稼ぐために

ホールスタッフのアルバイトをしていたボクの耳に、ある人物の話が飛び込んできた。

「でよー。そいつがえらい大金持ちでよー

昔カプ・テテフってポケモンとも、知り合いだったらしいぜー。」

……

ボクはピタリと足を止めた。

お客の話に聞き耳を立てながら、ボクは冷静を装おうと頑張った……

頑張った……けどさ……!

「しかもよ、そいつは今この街に来てるそうだ

みんな大騒ぎしてるよ。ぎゃっはっは」

ボクはたまらなくなって、手に持っていたトレイをぎゅっと握りしめた


たたっと走り、料理を反対側のテーブルに届けると

ボクはお客のいるテーブルへ行き、仕事のフリをして色々たずねてみた。

「どうした?ネコの坊主

その大金持ちの事がそんなに気になるかい?」

トレイを膝の前に畳みながら、ボクはこくこくと2回も頷いた。


「じゃあよ、この街で一番の高級ホテルへ行ってみな。今晩そいつはそこに泊まるそうだ
何しろ大金持ちだしな。ぎゃっはっは」

ボクは嬉しい気持ちでいっぱいになり、その客にお礼を言った


街一番の高級ホテル……

そこにカプ・テテフを知るというお金持ちがいる。

ときめく思いでボクは、いてもたってもいられなかった


すぐにでも姉さんにこの事を伝えたい

初めて見つけた……カプ・テテフへつながる有力な手がかりだったから。

夕方になり、アルバイトが終わるとボクはすぐ

「テレパシー」で姉さんと話をした
姉さんももうすぐ、パン屋さんのアルバイトが終わるってさ

そのお金持ちがいるとされる高級ホテルの前で、ボクと姉さんは待ち合わせをする事になった

ボクは一足早くその場所へ行き、姉さんを待つことにした。



「はぁ……はぁっ……」


目的地に着いた時、ボクは息も絶え絶えだった

もうすっかり日が暮れている
ボクは額の汗をふきつつ、姉さんを待った。

しばらくすると、姉さんが走ってきた。


「どこに……いるのです?その人物……はっ」


姉さんは息苦しそうに、片膝と胸を押さえながら

ぽつりぽつりとボクにきいた

ボクはうしろを振り返り、目の前の大きな建物を利き腕の左手で指さした。


「このホテルにいるみたいだよ

ボクたちが探してる……カプ・テテフを知っている人物がさ。」

ボクと姉さんは、互いに見つめ合ったあと

両手でハイタッチをした。

「やったね!姉さん」

「ええ!」

伝説といわれるカプ・テテフを探すため、ボクたちは旅に出たけど

彼(彼女?)に関する情報は少なくて、
姉さんとボクは、確かな手がかりを求めていろんな島々をめぐってきた

旅の費用を確保するため、行きついた先々の街でよくアルバイトしたりもした。


途中、倒れそうな時もあったけど

ついにとうとう、ボクと姉さんは「手がかり」を見つけた。

ボクは嬉しくなって

姉さんと、手をつないだまま踊りだしたくなった

そんなとき……

窓ガラス越しにボクたちを見ていたフロント係が出てきて
すたすたとこっちへ近づいてきた。

ボクと姉さんは、手をつないだままじっと黙った。


「坊やたち……今晩ここに泊まるのかな?

こどもが夜にウロウロしていると、悪いやつに連れ去られてしまうよ。
近ごろ「鼻の長い変質者」が出没するという噂だから。」

ボクと姉さんは目をぱちくりさせ

顔を見合わせた

手をほどくと、姉さんは事情を話した。


「ワタシと弟はロータからきました。

社会科見学のため、ここに寝泊まりされているというお金持ちの方と話がしたいです。
ぜひその方と直接お会いしたいと思うのですが……」

フロント係はウーンと難しい顔をし

「ちょっと待っていなさい」と言い残して、再び中へ入っていった。


「遅いですね……」


ボクと姉さんは、その場でずいぶん待ったけど、

フロント係は帰ってこない。

「ひょっとしてさ、

会ってくれる気がなかったりして……」

あまりにも遅いので、ボクは両手を後ろに敷いて、壁に背もたれた

足で地面にラクガキしながら、だんだんと不安な気がした。

しばらく経ってもやっぱり戻ってこない。


ボクと姉さんはがっかりして、今回はもうあきらめて帰ろうとした時、

さっきのフロント係が一人の「紳士」を連れて出てきた。

背中から6枚のモミジみたいな羽を生やしたその紳士は、堂々としていて

まるで仮面をかぶったように表情がなく、
黙ったまま、ボクと姉さんを上から見下ろしていた。

ボクはちょっと怖くなり、後ずさりをした。


今までに味わった事のない

「威圧感」……みたいなものを、姉さんもきっと感じていたと思う。

ボクたちの怯えた様子を見てとったのか

紳士はやや表情を緩めた

「君たちかな?ワタクシに会いたいと言うのは」


紳士はユラユラとボクと姉さんの前まで来ると、前かがみになって

ボクたちに目線を合わせた

「おびえなくていい。ワタクシの名前はウルガモスだよ、はじめまして。

君たちの事を教えてもらえるかな?」

ボクと姉さんは緊張しながら、それぞれ名乗った。


「グリモワールちゃんと、ジョバンニくんか。

勉強熱心な子供は大好きだよ。知りたい事があったら何でも聞きたまえ……キッハハハ」

よかった……思ったより優しそうな人物だ。

ボクと姉さんはほっとして、お互いの顔を見合わせた。

「さあ!中へ入りたまえ。

長旅でずいぶん疲れているだろう。ワタクシの部屋でゆっくりするといい
そう、とっておきの……ロイヤルスイートルームでな!」

キッハハハ、と笑うウルガモスさん


この風変わりな紳士に連れられてボクと姉さんは

ホテルの中へと入っていった

果たして、この人物から「カプ・テテフ」の情報を聞き出せるんだろうか?





《下》

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