Chapter6:ヌルとの遭遇

「へえ!これがピチューの部屋」

家に着くなり、サニーゴは中をキョロキョロ見回した。


「うわぁ~!本当にぜんぶ木でできてるんだ、ビックリだよ!

こんな所に住んでるって羨ましいな。」

次はこんこん!と珍しそうに壁を叩いてる

ツリーハウスってもんを初めて見るのか、だいぶお気に召したようだ。

「おいおい!はしゃぐのはいいがよ、ボロ屋なんだからあんま叩くんじゃねぇぞ」

「わかってるってば♪」

サニーゴは履いていた靴をぱぱっと脱ぎちらかすと

部屋の真ん中の方へ走り、オンボロ絨毯の上で嬉しそうにぺたんぺたん足踏みをやり出した
夜遅いせいもあって、その足は一日中靴を履いていたのか、ムレたすっぱい匂いが漂ってきやがる

くく、くっせ~~~!

おげぇ~!!

俺は「今すぐやめるんだ!!」と叫びそうになったが、何とか思いとどまった。


いくらクソガキとはいえ一応は『客人』だしな……

それにこんぐらい、チビすけの足の強烈さに比べりゃだいぶマシだぜ

平然を装い、玄関にとっちらかされたサニーゴの異臭漂う靴を四足とも丁寧に揃えてやりながら

ヒクヒクと口元が痙攣するのを自分でも感じとった

「そういえば、ずーっと思ってたんだけど。」


俺が便所サンダルを脱いで部屋に入ると、サニーゴは動きを止めて不思議そうな顔をした


「ピチューってさ、ずいぶん軽装じゃない?靴も履かないしリボンもスカーフも巻いてないし

今どき『素っ裸』で外を出歩けるなんて、ある意味スゴイよね!」

がはっ!!

サニーゴの容赦ない一言が深々と俺に突き刺さった。効果は抜群だった。
『素っ裸』ってお前……もうちょっとマシな言い方は無いのかよ!

せめてナチュラル派と言えよな

服を着るとかポケモンとして邪道だぜ!ぐっふぐっふ

その晩、俺とサニーゴはグミにサイコソーダ

カプじいが持ってきた木の実とかをグイグイ食べながら遅くまでダベった。

容赦のないマセガキだけどよ、話してみると案外いい奴だ



「あははははっ!それで結局、きみは入学案内を取り戻すどころか

三人仲良く入学禁止になっちゃったんだ?」

俺の惨憺たる有様を聞いて、サニーゴは「おっかしー」とジタバタ笑い転げた


く、笑いごとじゃねぇぜホント!

リザードンさんったら本当に容赦ナシでよ……
ちょっと市役所に忍び込んだだけでこの仕打ちだぜ。信じられるか?

カプじいも何故かダンマリ決め込むし……何がどうなってんだかさっぱりだぜ。

俺はサイコソーダを手に取り、ぐびっと飲んだ。

「ねえ。ピチューはどうして

そんなに学校へ行きたいのさ?」

グミを頬張りながらサニーゴは俺にきいた


学校へ行きたい理由?そんなの決まってる

早くワザを教わってカプじいやリザードンさんみてぇな『強くてカッチョイイポケモン』になるためだよ

「でもきみ、そのリザードンに罰として入学を阻止されたんでしょ?

そこはどうなのさ?自分の夢を邪魔されたのに……まだあいつに憧れてるわけ?」

う!そりゃまぁな……

確かに超絶腹は立ってるけどよ……

それでも、俺にはやっぱあの二人が目標なんだよなぁ……


「だいたいさぁ、リザードンはやり過ぎなんだよね

ピチューだけじゃなくて友達の二人まで罰するなんて!僕だったらそこまでしないけどなぁ」

サニーゴはウーンと難しそうな顔をした後、

閃いたように言った

「ねえ。僕の街へ引っ越さない?」

「引っ越す?俺が?」

何だ?どうしたんだ、やぶから棒に


「そ。《ウェイブタウン》っていうリゾートの街さ!

きみさえ良ければ、市長の僕が住民登録してあげてもいいけど?」

う~んリゾートの街か……

もし本当にできるんなら悪くないハナシだな

住み慣れたポケットタウンを離れるのはちょっぴり、名残惜しい気もするけどよ。


サイコソーダをぐびぐび飲みながら俺は冗談半分に

このマセガキの話を聞いていた

「でね、そうしたらリザードンの代わりに

僕がきみの『入学許可証』を新しく発行してあげてもいいよ」

ぶはぁっ!!

飲みかけたサイコソーダが思わず噴き出した

再発行だと……そんな事が可能だっていうのかよ!?


「だって、引っ越しちゃえばピチューは『ウェイブタウンの住民』になるわけでしょ?

そしたらもうリザードンの言う事なんか聞かなくていいじゃないか!」

お前……本気で言ってるンだな!

まさかまさかまさか、そんな裏技があるかもだと!?

だが、確かにこいつの言うとおりだ……

ポケットタウンから他の街へ引っ越しちまうってのは名案だぜ
例えリザードンさんがヘソ曲げても、他の市長さんに頼めばよかったんじゃないか

ピィもププリンも同じように引っ越せばいい

そうすりゃ三人で《シルヴァー学園》へ入学するって夢も復活できる……

さっきまでの脱力感がウソのように、希望が湧いてきたぞ!


だが俺はすぐ『ある問題』に気がついた

待てよ……俺と違ってピィとププリンには両親がいる

ポケットタウンから引っ越すとなりゃ、親とハナシをつけなくちゃならないんじゃ?

もし二人の親がOKしてくれなかったらどうするんだ……

でもまぁ……

ずっと夢見てきた《シルヴァー学園》への入学がかかってるんだ
ちゃんと話せば分かってもらえるとは思うけどよ。

くそっ……こうなってくると

やっぱ市役所に忍び込んだのは痛恨の大失態だったぜ

あの二人さえ巻き込んでいなけりゃ、俺だけ引っ越せばそれだけで済んだのによ!


こんちくしょうめ!それもこれも元はと言えば

俺の『入学許可証』がどっか消えたせいで、ここまで話がこじれちまったんだ。

結局、どこへ消え去ったのやら……

ピィとププリンの二人にはちゃんと届いてたし
ペリッパーさんに聞いたら、きちんと俺ん所にも届けたって言うしよ!

それも朝一番に、朝日が昇る前によ……


……

ん、待てよ?朝日が昇る前……

あんときカプじいが俺の家を訪ねてきたっけ……



あ……


「あぁーーーっ!?」


突然の大声に、隣のサニーゴはビクッとした


俺の頭ん中で『ある考え』が浮かび

まるで10万ボルトを食らったように全身に電撃が走った

そ、そうだ……カプじい……

カプじいが俺の入学案内をかっさらったんだ!そうに違いねぇ!

「ピチュー!どこ行くのさ!!」


"憤怒の炎"に身を焦がしながら飛び出そうとした俺を

サニーゴがしがみついて止めた

離せ!俺はカプじいに会わなくちゃいけないんだよ!


「何だよ突然!?どうしたっていうのさ!」


サニーゴはどうしたらいいのか分からなくて

とまどっているようだった

俺はフーフー息を切らし、ワナワナと拳を震わせて乱暴に言った


「カプじいが奪っていきやがったんだよ!

ペリッパーさんが配達した俺の『入学許可証』を……俺が起きる前にな!」

今思えば市役所でのカプじいの様子もおかしかった

俺がリザードンさんに罰を食らったとき、カプじいは黙って見ていた

いつものカプじいだったらあんな理不尽な仕打ち、何がなんでも阻止しようとしたはずだ

なのに今回に限っては完全にダンマリだった

カプじいのあの『らしくない』態度が俺の中で、ずっと引っかかってたんだ。


だがもし今朝……俺のポストから『入学許可証』を抜き去った犯人がカプじいだとしたら?

あの妙な態度にも納得がいくってもんだ。

こんちくしょう!!

カプじいの奴、何の目的があってこんな事を……絶対に許せねぇ!!

俺は怒りのあまり頭が爆発しそうになって、サニーゴの手を強引に振りほどき

一直線にカプじいの家へと向かった

「おいカプじい!!」


ドアをバンバン叩いたが一向に反応が無い

俺は怒りのあまり、頭がどうにかなっちまいそうだった。

くそっ!あのアホジジイ、こんな時にどこで油売ってやがる!


このままオメオメと引き下がってたまるか!こうなりゃカプじいが行きそうな場所を、片っ端から探してやる!

俺はそう決意し、その場から離れようとした

そのとき「ガサガサッ」と不気味な物音がきこえた

裏庭の方からだった

そこにいるのか?カプじい!!

俺は無我夢中になって、裏庭へと回り込んだ

「カプじ……」


裏庭についたとき、俺はその『異様な光景』に戦慄した


そこには不気味な仮面をつけたグループがいた

8、9……いや、10体もいるぞ!全員同じ姿をしてやがる

コソコソと建物の後ろに隠れながら、俺はおそるおそる様子を伺った

何なんだあいつらは……
カプじいの裏庭で一体何をしてやがるんだ?

怪しげな《仮面のグループ》は、お互いに何か喋っているようだった


「……、…………………。」


くそっ……駄目だ!

ここからじゃ何を話してんだかさっぱり分からん

俺は会話を聞き取ろうと、そいつらにばれない様にこっそり近づこうとした


だがそのとき……不運にも足もとに転がってた木の枝をバキッ!と踏んじまった

ちくしょー!最悪にツイてないぜ!!

案の定、その音で《やつら》が一斉にこっちに気づいた

俺は背筋にゾクッと寒気が走った

や、やべえ……

《やつら》がくる……くる……!!

俺は身の危険を感じ、この場から立ち去ろうとしたが

恐怖のあまり、まるで『かなしばり』に遭ったみてぇに体が動かない!

こ、殺される……

あいつらに……殺される……!!

そう覚悟したとき、後ろからタタッと走ってくる音がし

俺は《何者か》に抱えられ、みるみるうちにその場から離れていった

俺を抱えたそいつは、息をゼェゼェ切らし血相を変えながら走っているようだった




誰だ……



いったい誰が俺を運んでる……?



意識を遠のくのを感じながら

俺はそれを確かめようと、重たい首を懸命に動かそうとした。

ぼやけた視界のさきに《そいつ》の顔を見た


「サニーゴ……」


最後の力を振り絞ってつぶやいた後、俺は目の前が真っ暗になった。









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