Chapter14:旅立ちの朝

ついにペンションを旅立つ日がやってきた

朝早く、俺とピィとププリンは自室のベッドの上で荷物をまとめながら
これからの事について話し合っていた

《シルヴァー学園》はポケッ島から少し離れた孤島にあるらしい
島が丸ごと敷地になってて、俺たち新入生を含め「全生徒と教職員たち」は全員その島で暮らす事になる。

行ったが最後、卒業するまで「特別な事情」がない限りは島から出られない
年に一度の夏休みを除いてはな

「あべべべべ~

しばらく会えないからってママ、こんな物送ってきてる~」

ププリンが「写真立て」を手に取りながら愚痴った
写真にはププリンと、ププリンの父ちゃんと母ちゃんが映っていた

ププリンの母ちゃんと言えば、プックリ丸くて優しいモフモフのプクリンだ
過保護すぎるぐらい子供思いな母親で、ププリンが全寮制のシルヴァー学園に行く事にも猛反対してたっけ

学園の評判は良いし、親友の俺とピィも一緒って事だからしぶしぶ折れたらしいが
本音はやっぱププリンのことが心配で仕方ないだろうな…
いい母親で羨ましいぜ。

それに引き換え「俺の親」ときた日にゃ
二人揃って不倫してたあげく、借金取りに追われてどっか夜逃げしやがって…最低最悪だぜ

親がロクデナシだと失うもんがなくて気がラクだけどな。ぐふははは

「シルヴァー学園はいい所よ~。
おばちゃんも20年前に通ってたんだけどモ~、
世界中からやってきた同年代の子たちとお勉強するのは、とっても刺激的で楽しかったわねぇ~」

荷物整理を終え、食堂で三人仲良くモーニングメニューのサンドイッチを貪ってると
ミルタンクおばちゃんがモーモーミルクの瓶を運んできた

「授業が厳しくておばちゃん落第しちゃったけどモー、
あの学園での日々があったおかげでペンションのマスターになれたのよ~
ペリッパーとも知り合えたし、あそこでの楽しかった日々は一生忘れられないわぁ~」

おばちゃんは思い出にふけりながら語った

このおばちゃんもかつてシルヴァー学園の生徒だったんだな
卒業こそ出来なかったけど、おかげで『ミルク飲み』って技を極める事ができたんだってよ

俺はミルクをグイグイ味わいながら、
おばちゃんのモーモーミルクがこんなにも美味しい理由に納得した

「羨ましいよ。ボクもできれば通ってみたかった」

皿を片付けに弟ニャオニクスがやってきた

「ボクと姉さんは…
"魔法族の戒律"で一般の学校に通うことは禁じられているからさ」

弟ネコは残念そうに「はぁ~…」とため息をついた

よく分からんが
魔法使いってのも色々大変なんだな

「ボクと姉さんもこのペンションからキミたちを応援してるよ。
頑張ってね!」

ああ。お前らのこと、可愛くてわりと好きだったぜ


朝飯を食い終え、俺たちは食堂で弟ネコやミルタンクさんと最後の時間をダベって過ごした
そして…時間がやってきた

《シルヴァー学園》からお迎えの船がくる時間だ

「さてと…
じゃ俺たちは行くぜ!」

10日間滞在したペンションにいよいよ別れを告げる時がきた

ミルタンクおばちゃん、双子のニャオニクスに手を振ってバイバイし
俺たち三人は港を目指して出発した


「それにしても色々あったわよね。」


ヒマワリがぽつぽつ咲いた坂道を降りる途中でピィが口を開いた

俺の『入学許可証』が奪われた事から始まり、
市役所へ潜入し、ポケットタウンを飛び出してここウェイブタウンにやってきたんだよな

途中、ワケの分からねぇクソ野郎に殺されかけたりもしたが、
ペンション・カンナギで出会った魔法使いの双子ニャオニクスに助けてもらったっけ

そして、サニーゴとウェイブタウンのカフェ通りを巡ったり、アイアンテールを習得したりもしたな。
とてつもなく濃密な10日間だったぜ…

それも全てはこの日のためにあったんだ
いよいよ、俺とピィとププリンの「新しい日々」が始まるんだ。

そう考えると胸がドクンドクンと高まるのを感じた



その時…
空から「バサバサ」羽ばたく音がきこえた
キャモメのチビすけがポーチを引っさげて海の方から飛んでくる所だった

「チビ!?」

チビは俺たちを発見すると、急降下して木で作られたガードレールの上に乗っかろうとしたが
足がすべり、「わぁっとっと!」とバランスを崩して落ちそうになったため、俺とピィがその足を掴んで支えた

おい、大丈夫かよチビ!
まだ風邪が治ってないんじゃないのか?

「もう平気!
あのね。ピチューお兄ちゃんに、みんなから手紙があるよ!」

チビはゴソゴソとポーチの中から手紙を取り出し、「はいっ!」と俺に手渡した

それは…
"ポケットタウンに住むみんな"からのメッセージだった


ピチュー君へ。
学園での修行は厳しいが、ポケットタウンを飛び出す程の熱意と根性があれば大丈夫だろう
シルヴァディ理事長は私と違って甘くない。気を付けることだな

それから、夏季休業には帰ってきなさい。みんな君の顔を見たがっているのだ。
君の家と住民登録はちゃんとそのままにしてある。

リザードン


黙って引っ越すとはええ度胸しちょるのぉ
ポケットタウン一の問題児がいなくなってワシの鉄拳を食らわす相手がおらず退屈じゃけぇ
はやく帰ってこいや!たっぷりしごいてやるけぇの
グランブル


ピチュー君が街を出ていったと知った時はビックリしましたけど
夢を追いかけるのに一生懸命なのは良い事だと思います。シルヴァー学園に行っても体に気を付けて!
お花に水をやりながら応援しています♪
ハピナス


うちのチビが風邪で倒れたと聞いて、出張先からすっ飛んで帰ってきたよ
ピチュー君。チビをずいぶんコキ使ってくれたようだね
君は今日限り解雇(クビ)だよ

だから郵便局の事は気にせず、がっつり学園生活を満喫してくるがいいよ
きっと"かけがえのない経験"になるから。あ、それから今月分のお給料未払いだけど勘弁してね
ペリッパー





メッセージはまだまだ続いた

読んでるうちに、俺は遠いポケットタウンのみんなの姿を思い出し、
目頭がぐっと熱くなった

「チビすけ…届けてくれてありがとよ!」

俺はチビを力いっぱい抱きしめた

思いっきり抱いたせいでチビは靴がかたっぽ脱げて裸足になり、苦しそうに俺の腕の中でジタバタもがいた
許せよ…今だけはこうしていたいんだ。
チビ、かわいいぜチビ



ポケットタウンのみんな…
応援ありがとよ…

必ずまた帰るからな、俺の故郷《ポケットタウン》へ!






俺たちの戦いはこれからだ!!




かはーーーっ!!








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