Chapter12:ウェイブタウンのビーチ街

あれから数日……
チビは蒸発したように連絡をよこさなくなった
しかも、申し込んだはずの『入学許可証』も学園側がサボタージュしてるのか未だに届かねえ。

「くそったれ、入学まで残りわずかだってのに
このままじゃ間に合わなくなるぞ。というかチビすけはどこいっちまったんだ」

定休日で誰もいない昼下がりの食堂でぽつんと一人、
カビの生えた廃棄パンを貪りながら、俺は「5歳児に大事な手紙を届けさせた」のを今になって心底後悔した

「あのさ!これからボク、森へ"キノコ狩り"に行くんだけど
ピチューも一緒にどうかな?」

弟ニャオニクスのジョバンニがニコニコしながら聞いてきた

キノコ狩りか……面白そうだが断る。
とてもそんな気分じゃないぜ

「そんな事言わずにさあ、一緒に行こうよ!
採れたキノコを使って姉さんが"美味しい夕飯"を作ってくれるし!」

弟ネコはまだ諦めずに、俺の肩をモフモフしたその手でゆさゆさ揺らしてきた

本当にしつけーネコだな……
だが、「美味しい夕飯」って響きは気に入った
どっさりクッサリ採りまくって今夜はキノコバイキングにしてやるぜ!

俺がしぶしぶOKすると弟ネコは「やったね!」と無邪気にはしゃいだ

その時、唐突に「ピチューー!!」とデカイ声がし
振り返ろうとした瞬間、俺はゴツゴツした何かに背後から思い切り抱きつかれた

かはーっ!!し、死ぬ…
この感触、この声、強烈に覚えがあるぜ!

「サニーゴじゃねぇか!何しにきたんだよ!」

弟ニャオニクスがドン引きしてるのを感じとった俺は、
情熱的なハグをかますサニーゴから必死に逃れた。すると奴はふてくされた顔をした

「だってさぁ。ピチュー、家に遊びに来るって言った癖にぜんっぜん来てくれないじゃん!?
だからさ、こっちから来ちゃった!」

ああ……
確かそんな約束したっけ。
ワリィ、あの後不審者に襲われてすっかり忘れてたぜ。

「え~。ひっど……けどまぁイイや
今から僕と出かけない!?面白い場所たくさん案内するよ!」

嬉しいけどよ、今は無理だぜ
たった今この弟ニャオニクスと約束をしたばかりなんだ
サニーゴはそれを聞くと「フーン…」とジトーっとした眼差しで弟ネコを睨みつけた

「ねえ。すっごく睨んでくるけど、この子誰なのだい?
ピチューのガールフレンド?」

弟ネコは冷や汗かきながら聞いてきた

ガッ!ガールフレンドだと……
とんでもねぇ思い違いだぜ!それにお前、こいつを見た目で判断すると……

「あぁもう~っ!!僕はオトコだよ!!
この街の市長のサニーゴさ!れっきとしたオ・ト・コ!!」

弟ネコは「Σえぇ~っ!?」と飛び上がるぐらい驚いた

ま、まぁ……
そういう反応するよな、普通は。
こんな可愛いピンクのナリした奴が突然ハグしてくるのを見たら♂だと思わんよな。

「まーったく!イヤになっちゃうよ
みんなして僕を女ってさ!一体僕のどこが女なのさ!?」

サニーゴはプンプン怒り出して何度も足で地べたを踏んづけた

まぁ落ち着けよ
何だったらお前も来るか?俺達のキノコ狩りによ!

「キノコ狩り?」とサニーゴは首を傾げた

「ムリムリ!やめといた方がいいと思うよ
今年は『Vウェーブ』が不安定なせいでキノコがほとんど生えないって聞くからさ」

Vウェーブ?
最近よく聞くが何だそれは

「Vウェーブというのは、この星を形成しているエネルギーだよ
全部で18種類確認されていて、それらのバランスが崩れるとボクたちポケモンは技を出せなくなったり、
自然界にも悪い影響を及ぼしてしまうんだって。」

弟ネコが丁寧に答えてくれた
なるほど星のエネルギー…そんなものがあったとはな。サッパリ知らなかったぜ

「うーん、でもそっか…それなら仕方ない
キノコ狩りは諦めるよ」

弟ネコは残念そうに下を向いて目を閉じた

「じゃあピチューは僕と一緒にお出かけ決定だね!
そうと決まればレッツゴー!」

サニーゴは俺の手を引っ掴み、強引に外へ連れ出した

おい…!
ちょっと待て!強引すぎるぜ!?
俺の意見を聞く気はサラサラねーのかよこのピンクボーイよ!

大はしゃぎで走り出したサニーゴに手を引っ張られたまま
俺は駅へ猛ダッシュし、大急ぎで駆け込んだリニアの中で汗にまみれてゼェゼェ息を切らした

「ハァハァ…!
走ったおかげで、ナントカ間に合ったね!」

サニーゴもかなり息があがってたが、その顔はとても輝いていた

全速ダッシュしたせいでヘトヘトだぜ…
ゼニガメ達から逃げた「あの夜」を思い出すな。あん時は俺が引っ張る側だったけどよ

「ねえ!どこ行きたい?僕、この街の事ならぜんぶ知ってるから
ピチューの行きたい場所に案内するよ!」

サニーゴは背伸びして顔をグイッと近づけながら無邪気に聞いてきた

だから、そうやっていちいち近づくんじゃねぇ!
おかしな勘違いされるじゃねぇか!

「ぐふう、そうだな…
シアターとかカフェとか、スタイリッシュな俺様に相応しい"大人の魅力に溢れる場所"がいいぜ!」

俺はグイグイ迫るサニーゴの顔を押しのけながらクールに答えた

「それなら、ビーチ街がオススメさ!
激苦漆黒エスプレッソの『ダリフ・ラ・カフェ』や、こってり濃厚純白ラテの『ネル・カ・カフェ』
それにもちろん劇場もあるから一緒に行こうね!たーのしみ!」

結局、俺はやけに嬉しそうなサニーゴを連れて
ビーチ沿いにオシャレなビルが立ち並ぶカフェ通りを二人で巡り回った

道ゆくポケモンが俺たちを見て微笑ましそうに笑ったり、ヒューヒュー口笛吹くのが気にはなったが
この際そんな事はどうでもいいぜ…

旨い…
コーヒーが最高に旨いぜ…

それに、表のビーチ街の賑やかさとは打って変わり、静かで落ち着いたカフェ空間…
湯気と共に立ち昇るエスプレッソの芳醇な香りと『踊り子』キレイハナ達が奏でる穏やかな音楽の数々に
俺の疲れきった心が安いでいく……。

このポケッ島にこんなスタイリッシュな場所があるとは知らなかったぜ。

濃厚なカフェタイムに満足した俺は、
ヤシの木が立ち並ぶビーチ街のベンチでサニーゴと一休みした

「えー?ピチューの『入学許可証』、
まだ届かないの?」

サニーゴは俺の話に半信半疑そうな顔をした

そうだ…
学園の奴らめ、どんだけサボタージュしまくってるのか未だに送ってこないんだ。
このままじゃ俺様の入学が絶望的だぜ。

「ひどいね…だけど大丈夫さ。心配しないで
イザとなったらカメックスにシルヴァディ理事長を恫喝させて、許可証ナシで入学できるようにするからさ」

う、とんでもねぇ事をさらりと…
確かにあのコワモテのカメックスに本気で睨まれたら誰だろうと逆らえんぜ。

「それよりさ!ピチューは気がついた?
結構"来てる"みたいだったよ」

サニーゴの話によると、
ここウェイブタウンには毎年《シルヴァー学園》行きの船が停泊する事になってて
毎年シーズン中は"新入生とその親"でごった返すんだとよ

確かに、さっきから風変わりな衣装を着た
どっか"別の国"からきたっぽいポケモンをちらほら見かけるな

『羅針盤をじっと見つめる青いヌマウオの男の子』や、『アラビアーンな服を着たトカゲの男の子』

中でもネル・カ・カフェにいた『白い帽子に緑のドレスを着て白い靴を履いた
丸くてずんぐりしたネコの女の子』が本読みながら優雅にカプチーノ飲んでる姿が一番印象に残っている…
めちゃくちゃ可愛かったぜ…

あんなプリティな子と、もしも一緒のクラスになれたらよ…
ぐふふ…最高だぜ…!

フワフワ甘い妄想に酔いしれていると、やがて俺は目の前が桃色一色(ピンク)になった






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