カプ・レヒレと霧の幽霊船《Null》

ケーシィ(NN:クラリス)
この物語の主人公。いつも本を読んでいる聡明な少年。
人一倍災難に遭いやすく、しょっちゅうクラスメートに宿題を教えてとせがまれる。父親と仲が悪い。

ラクライ(NN:ラウル)
バチバチと火花を散らす活発な少年。体力は一番だが頭は弱い。
凄腕の探検家・ライボルトを父に持つが、将来はパティシエになるのを目指している。

クマシュン(NN:トート)
病院長の愛娘。ケーシィやラクライより幼いが頭は良く、
飛び級によって二人と同じ学年に入ってきた。いつも鼻水を垂らし、ゴム長靴を履いている。


カプ・レヒレと霧の幽霊船

Null:4体のカプ

ずうっと昔……
世界には「5つの大陸」が存在した

《水の大陸》、《風の大陸》、《砂の大陸》、《草の大陸》、
それから《霧の大陸》。

《水》を除いた四つの大陸には
それぞれ、「守り神」と呼ばれる伝説のポケモンがいたんだって。

大昔のポケモンは偉大な彼らの事を、敬意を込めてこう呼んでいたらしい……

《カプ》……と。







「おっケーシィ!いたいた」

一人で読書していると、クラスメートのラクライとクマシュンがやってきた
僕は読んでいた本をぱたりと閉じた。

「やあ。どうしたの?
二人一緒で図書館に来るなんて珍しいね。」


二人ともバッグをぶら下げてるから、学校の帰りなのだとすぐ分かった

クマシュンはたまに図書館にいるのを見かけるけど
ラクライは滅多に利用しないのに、今日は一体どういった風の吹き回しだろう?

「あのねー。ラクライがね。
昨日の数学の宿題が分からなくてベソかいてるの。」


……がっくし!!

またなのかいラクライ……いつもの事だけど。

「こんにゃろ!余計なコト言ってんじゃねーよ……
正直に言えよクマシュン、おまえも宿題が分かんなくてケーシィに教えてもらいにきたんだろ?」


クマシュンは「エヘ」といたずらっぽく笑うと
こっちに走ってきて、長靴を脱いで裸足になってちょこんと僕の隣に座った。

「お菓子がねー。いっぱいあるんだよ。」

クマシュンはバッグをごそごそ漁り、小さい袋を取り出してポンと机の上に置いた
袋の中にはクッキーやキャンディーがたくさん入っていた
全部、ラクライが作ったお菓子なんだってさ

ラクライは将来、パティシエになりたいらしくて、
よくお菓子を作ったりしてるんだって。男の子なのにかわいらしいよね。

仲良く机を囲んだ僕たちを見て、司書のハハコモリさんがこっちへきた

「宿題するのはいいけど、
図書館だから静かにしてちょうだいね。」


ハハコモリさんは、僕たちが頷くと優しく笑って
オレンのジュースをサービスしてくれた。

「よっこいしょっと!」

ラクライは帽子とバッグをわざわざ、反対側の誰もいない椅子の上に置いてきたあと、
戻ってきてジュースをがぶがぶ飲みはじめた

帽子をとったラクライの頭は、
毛がふわふわっと跳ねていてまるで寝ぐせみたい。

モフモフしていて、さわったらとっても気持ちよさそうだよね……



僕とラクライとクマシュンは同じ《クラル・ベルク校》に通うクラスメート。
ただし、それぞれ時間割が異なる

いつも一緒に授業を受ける訳じゃないし、帰る時間もバラバラ。

僕たちの学校では、生徒は一部の必修科目を除いて
どの教科を優先して受けるのかを"自分で選んでもよい"決まりになっている

たとえば学者さんになりたいのなら、数学の他にも物理や幾何学を受けてみてもいいし
運動がきらいなら体育の科目を最小限に減らす事もできる。

子供の内からそうやって「じぶんには何が必要で、
何が要らないか」を自身で選ぶ……それが『中央の島々』の方針なんだってさ。

僕は、今日はアブリボンさんの幾何学の授業だけ受けてマッシブーン先生の体育授業はスルーし、
あとはずっと図書館で読書している

ここでは落ち着いて本が読めるし、優しいハハコモリさんにも会えるからね。




「ねー、さっきから何読んでるの?」

ふいにクマシュンが僕の読んでる本を気になりだした

「大昔、4つの大陸をそれぞれ守っていた伝説のポケモンについて
書き記された書物だよ。」


古くてぼろぼろに色褪せたその本を、僕は二人に見えるよう机の上に置いた


題名(タイトル)は、
『4体のカプ』


《カプ》の名を持つ4体の守り神……

風のコケコ、火山のテテフ、
草原のブルル、そして霧のレヒレ。


今はもうどこにいるのか、存在しているのかさえ分からない
"幻の存在"となった4体のポケモンたち。

中でもとりわけ、僕はカプ・テテフがお気に入りかな

テテフには「エスパータイプのポケモン」をパワーアップさせる不思議な力があるらしくて
その上、明るくて可愛い女の子なんだってさ。

本に描かれたその愛くるしい絵……
それは僕をまるで、チョウチョのように軽快に空を舞う気持ちにさせた。


「あ、このレヒレって奴
俺の父ちゃんの知り合いなんだぜ。」

ラクライがカプ・レヒレの絵を指さしながら言った。

確かラクライのパパは高名な探検家だって聞いたことがある
でも…いくらそうだとしても、伝説のポケモンと知り合いだなんて信じられないな。

「本当だってば。嘘だと思うなら
今からウチにきて、父ちゃんに直接聞いてみるがいいぜ!」

そんなわけで、僕とクマシュンはラクライの言葉がホラなのかどうか確かめるため、
彼の家にお邪魔する事になったのでした。






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