《Eins》探検家ライボルト

「ほっほう、レヒレのことが知りたいってか!」

ラクライのパパ、ライボルトさんはガハハと大らかに笑うと
僕とクマシュンをお店の中に入れてくれた

彼は骨董品屋さんでもあり、世界中を冒険して手に入れた"お宝や珍しい道具"を売ってるんだってさ
誰も買わないのかさっぱり売れてないらしいけど

「これってさー
ラクライのパパが見つけてきたんだよね。」


クマシュンが背伸びをしながら、チェストの上に飾ってある変なツボを指でツンツンしだした
やめなよクマシュン…もし落として割っちゃったら弁償だよ!?


「心配すんなって!

どれもこれも訳の分からねぇ安もんのガラクタばっかだから!」

ラクライはゲラゲラ笑いながらそう言ったけど、
直後にライボルトさんのゲンコツを食らった

「このドラバカ息子…
どうやら後で"キツ~イお仕置き"が必要なようだな!
まァいい。ついてこい、メガネの坊主と長靴のお嬢ちゃん
いいもん見せてやるからよ!」

嫌がるラクライを口に咥え、
ライボルトさんは僕たちを"奥の部屋"へ案内した

そこは草を編みこんだような変わった床になってて、部屋の中は独特の匂いが漂っていた
『ワシツ』っていう、外国の文化を取り入れた部屋なんだってさ

「履き物はそこに置いてきな。」

僕とクマシュンはそう言われ、スニーカーやゴム長靴を脱いでから部屋に入った

ライボルトさんは奥の引き出しから一枚の"古びた地図"を取り出すと、床に広げて僕たちに見せた
"地図"には大きな文字でこう書かれていた



『ミストアイランド』




霧の向こうにある秘密の島

…だってさ

20年ほど前…
まだ若かったライボルトさんは
探検中に海難事故に遭い、この《ミストアイランド》に流れ着いたらしい。

周りの海は深い霧に囲まれていて、その上帰る船も無い…

途方に暮れていた時、ライボルトさんは島の奥から「誰か」に呼ばれた気がして
不思議な予感とともに島の奥の方へ、奥の方へと進んでいくと
そこで"霧に隠された船"を見つけたんだって。

「伝説の存在…
カプ・レヒレの住処だった訳よ」


ライボルトさんはプハァ~っと葉巻をフカしながら言った

それから…
ライボルトさんはカプ・レヒレとすっかり打ち解け
お酒を飲み交わした後、その力で無事に島から出る事ができたんだってさ

以降、ライボルトさんは毎年《ミストアイランド》へ足を運ぶようになり、
食料や見つけた宝物を贈り続けてるらしい。

命の恩人であるカプ・レヒレへの感謝をずっと忘れないために…って。
いい話だよね。僕感動しちゃったよ

「で。いつのまにかこんな地図モンを描いてた
地形も特色も全て覚えてるし、俺には必要無かったが…まぁ探検家の本能って奴だな。」


なるほど…
ラクライの言ってた事はホラじゃなくて本当だったみたい
疑ったりしてゴメンね。

「な!言った通りだったろ?
父ちゃん昔は超超スゴかったんだぜ!」


ラクライは得意げに笑ったけど、次の瞬間ライボルトさんにまたゲンコツされちゃった
「馬鹿野郎!"昔は"は余計なんだよ!」…だってさ!

ともかく…
ライボルトさんとカプ・レヒレの話は
僕の果てしない"知的好奇心"をまた一つ満たしてくれたのでした。

僕とクマシュンは、満足しながら帰っていった






翌日…

屋敷を掃除にきたハウスキーパーのキュワワーさんも帰り、
僕はお昼のサンドイッチと紅茶をいただいた後
、自分の部屋に戻って読書する事にした

今日は"休校日"だから、家でゆっくり好きなだけ本が読める

「ふわぁ~…まだ眠たいな」

僕はあくびしながらゆっくりベッドに上がり、読みかけの本のページを開いた
今日はポカポカ暖かくて、眠りこけてしまいそうだ

そういえば、前に読んだ医学の本でこんな事が書かれていた

『ケーシィという種族は、一日18時間以上の睡眠時間が必要である』

…だってさ。

理由は膨大なサイコパワーを使うからだって

でも、そんなに長い時間寝ていたら人生はあっという間に終わっちゃうよ
そんなの勿体ない…

だから僕は、普段あまりサイコパワーを使わないようにしてる
浮いたりせずに自分の足で歩いてるし、『念力』を使えるのも一日一度までとルールを作ったりしてさ

「それってエスパーポケモンとしてどう?」とか思われそうだけど、
僕にはその方が合ってるんだよね。何故ならもっと長い時間、起きて読書していたいからさ。

それでもやっぱり、いつも眠たい思いはしてるけどね…

「はあ…。どうして神様は
僕たちケーシィにこんなにも長い睡眠時間を要求するんだろう?不公平だよね」


その時「カラカラン」という鈴の音がきこえた
誰かが門のベルを鳴らした音だ

「いったい誰だろう?
普段あんまりお客さんこないのに…キュワワーさんが忘れ物をしたのかな?」


僕はベッドから降り、革スニーカーを足に履いて、玄関まで歩いて様子を見にいってみた
その間、しきりにベルの音は鳴り続けていた…


門を開けると"見慣れた顔"があった

「クマシュンじゃないか。どうしたのさそんなに慌てて…」

クマシュンの体は汗をたっぷりかいていた
だいぶ息も上がってて、何か"重大な事件"が起きたんだろうと僕は察した

「た、大変なの!
ラクライが…ラクライが家出しちゃったの!」


家出だって?一体どうしてそんな事になったのさ

「あのね。ラクライがパパと…
あーもう!とにかく一緒にきてほしいの!」


クマシュンは僕の手を掴むと、ムリヤリ手を引っ張って一目散に走りだした
僕、体力ないのに…

クマシュンに引っ張られるまま、僕はカントリータウンの街中をどこまでも走った
途中、僕たちが通う《クラル・ベルク校》も横切った

やがて…、氷河のほとりまで辿りつくと、クマシュンはようやく僕の手を離してくれた

「もうヘトヘトだよ…!」

僕は汗びっしょりになって芝生に倒れ込んだ
こんなにたくさん走ったのは、マッシブーン先生の最悪のマラソン授業以来だよ…!

「ケーシィ、大丈夫ー?」

クマシュンはけろりとして僕の顔をのぞきこんだ

これが大丈夫そうに見える…?
君の方こそ、僕以上にたくさん走ったはずなのに何故そんなに元気なのさ

「私、ケーシィと違っていつも運動してるから
あのね。お勉強も大事だけど、体も動かさないとそのうち病気になるんだよー?」


余計なお世話だよ…

「それよりさ、ついたよー

あそこが《ラクライの秘密基地》なの。」

クマシュンが指さした方には、怪しげな洞窟がポッカリと口を開いていた

「さ。早く行こうなの!」

まだへろへろで倒れてるのに、
またしてもクマシュンに手を引っ張られ、
ムリヤリ僕は洞窟の中へ連れていかれちゃった

なんなのさ…全くもう~。



洞窟内はジメジメ湿っぽくて、薄暗くて、
おまけに中央がまるで「水路」のようにどっさり水が溜まっていた

僕は靴を濡らさないよう、真ん中の「水路」を避けて脇の道を歩く事にしたけど、
クマシュンは構わずトプンッと水に踏み込んでいった

「ねえクマシュン、
こっちの道なら濡れなくてすむよ?」


いくら防水性が高いゴム長靴を履いてるとは言ってもね…
クマシュンのちっちゃい体では、冷たい水がヒザまで浸かるから"靴の中がビショビショ"になって足が霜焼けになっちゃうよ。

「いいのー。私、寒いの好きだし!」

クマシュンは水に浸かったまま僕の方を振り返り、鼻水をブラブラ揺らしながら笑った

前から思ってたけど、クマシュンってわざわざ進んで寒い所に行きたがるんだよね
きっと彼女が「氷タイプ」なせいだろうけど…
僕にはとてもマネできないよ

しばらく歩いてる内に、奥の方がだんだんと明かるくなってきて
やがてこじんまりした小部屋に辿りついた

そこは《ラクライの秘密基地》だった







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