Chapter16:砂漠からきた少年

ベッドでくつろいでいるとドアが開き、オンボロバッグを肩に担いだ
しっぽに火を灯したトカゲの少年が入ってきた

「おー、ここがオレの部屋かー
いいじゃん!」

丸い頭に帽子をちょこんと乗せ、赤いポンチョに身を包み、どこか民族風っぽい服を着たそいつは
黒いブーツを履いたその足でテクテク歩いてきた

「ちぃーっす!
オレはヒトカゲってんだ
砂漠の国出身だ、よろしくなー!」

おう、俺の名はピチューだぜ
こっちは下僕一号のピィと二号のププリンだ。よろしくな

ヒトカゲは「よっこらしょ」と肩に担いでたオンボロバッグを床に下ろすと
俺達の方に走ってきてぽっふん!とベッドに腰かけた

「いやぁ~!オレ方向オンチでさ
港がなかなか見つからないもんだからあっちこっち走り回るはめになったよ
もうクタクタさ。この街マジで広いよなー」

ヒトカゲは汗をかいてるせいか顔がテカテカ光っていた

そういや…
前にサニーゴと一緒にビーチ街を歩いてた時も見かけたな
今思えば妙にオドオドしていたが、方向オンチのせいで道に迷ってたんだな。

「見てたの!?こりゃ恥ずかしい…
あん時オレ、自分が泊まるホテルを探し回っててさぁ…」

ヒトカゲは照れたように頭をポリポリかいた

「オレさ、砂漠の国の《アラビンシティ》からきたんだ
お前らはどこの出身なの?」

足をブラブラさせながらヒトカゲはぶっきらぼうに聞いてきた

「ぐふ。俺たちはな
ここポケッ島の《ポケットタウン》出身だぜ!」

「ふーん!近くていいじゃん」とヒトカゲはケラケラ笑った

俺たちはお互いのことを喋り合った

ヒトカゲは砂漠のど真ん中にある街で、船乗りの父親と暮らしていたらしい
《シルヴァー学園》に通いたいって父親に言ったら「お前は船の仕事を手伝ってりゃいいんだよ!」って
めちゃくちゃ怒られたんだってよ

入学許可証を目の前で破り捨てられた上に、
怒って反発したら『メタルクロー』とかいう技でズタボロにされたらしい

「あれはメッチャ痛かったなー」

全くひでぇ話だ…
この世にはロクでもねぇ親がいやがる

「でもオレ……
どうしても諦められなくてさ。夜中にこっそり家出して、
砂漠を越えてロトルカまで行って、フォッコ様に頼んで『入学許可証』を再発行してもらったんだ」

「あ、フォッコ様はオレの国のお姫様ね」とヒトカゲは付け足した

フォッコってのは、
可愛い姿をしたキツネの姫様で、甘くて美味しいお菓子にとにかく目がないらしい
で、美味しいお菓子をあげると何でも望みを叶えてくれるそうだ

おてんばな性格で、喋り方が男の子っぽくて、
一人称が「ボク」なんだってよ。なんとも個性的な姫様だな

しかしこのヒトカゲ…聞けば聞くほど俺と境遇がそっくりだ
駄目親持ちって点といい『入学許可証』のせいで苦労した点といい、親近感が湧いてくるぜ

「あべべべべ~。なんだか波乱万丈な人生だね~」
「そうね。どっかの誰かさんみたい」

ピィとププリンがねっとりした目で俺を見た

う、何だその目は…
お前らそれでも親友かよ。くそったれ共め

「あ。そうだ、いい物があるんだ」

ヒトカゲは何かを思い出し、バッグからもぞもぞと"小さい箱"を一つ取り出した
中にはクッキーのような物体がたくさん入っていた

「オレの国のお菓子さ。みんなで食べてよ」

デコボコしたその不格好なクッキーは、真ん中にグミのような物体がちょこんと乗っていた
「とうがらしサブレ」とかいう名前らしい。

「フォッコ様の夢ってのはさ、
スイーツづくりで我が国を世界一にする事なんだぜ!」

へえ~、そいつはスゲェな
だったらこの菓子もさぞかし美味いんだろうな

俺は期待して一つ摘み、口の中にポイした

どれどれ…




う……









マズーーーーーーーーーッ!!



すさまじいゲロマズさだぜ…
パサパサした雑な食感と共に壮絶な辛みとイガイガした嫌な甘さが口ん中で暴れ回りやがる…

お世辞にも美味いとは言えないぜ!
言っちゃ悪いがこんなゲロマズスイーツでは天下の覇権を取るなんて不可能だろ!

それとも、炎ポケモンの口には合うってのかぁ?

「どう?美味しいでしょ」
「あ、ああ…個性的な味だぜ!」

目をキラキラ光らせながら聞いてくるヒトカゲのその純粋な眼差しに
俺は不味いとは答えられず、あえて微妙な言い方をした

「オレさ、とうがらし大好きなんだ
特にこのサブレお気に入りでさぁ~っ!ついつい買って食べちゃうんだ!」

ヒトカゲは嬉しそうにボリボリ食いだした
どうやら炎タイプにとっちゃこれが最高に美味しく感じるらしいな

オエェ~ッ
信じられねぇぜ…

「なぁ!そこのあんたも一つどうお?」

ヒトカゲは向こうで読書してるニャスパーにも勧めた

「遠慮しとくわ。美味しくなさそうだし」

ニャスパーのキツい一言にヒトカゲは「ガーーン!!」とショックを受けたようだった
俺の時もそうだがこの女、はっきりと物を言うタイプだな…

「うう…まぁいいけどさ
そういえば、あんたは何て名前?どっからきたの?」

ヒトカゲはけろりと立ち直って訊いた

「私の名前はニャスパー。
《オルセイルシティ》という湖の街からきたの」

ニャスパーは「でも…あんまり好きじゃないかな」と一言付け加えた

ヒトカゲが「何でさ?」と訊くと
読んでた本をパタンと閉じ、悲しそうな目をした

「…べつに。
私だけみんなとは"仲間外れ"っていうだけ。」

ニャスパーは口ぶりこそ平静だったが、表情はどこか寂しげだった

「あべべ~、ニャスパーって友達いないの?
だったら僕が友達になるよ~!ともだちともだち~!」

ププリンがぴょんぴょん跳ねて言った

「ごめんなさい
私、あなたのように能天気なお調子者とは付き合わないの。」

ニャスパーにきっぱり言われ、ププリンはショックで石のように固まった

く、こいつ…!
俺のダチをコケにしやがって。もう許せん!

「てめーッ!そんな言い方無いだろ?
確かにププリンは能天気で大ボケ野郎だけどよ…仮にも「友達になろう」って言う相手に対してその態度かよ!
ププリンがお調子者ならお前はとんでもねぇ冷酷の薄情者だぜ!」

ププリンをコケにされて熱くなった俺は「俺のダチに謝れ!!」と荒っぽく迫った

ニャスパーは一瞬とまどったようだったが
すぐにムスッとし、無言のまま「プイッ」とそっぽを向いた

うぎぎ…貴様何だその態度は!

さっきから人をコケにしまくりやがって!
最強に腹立つぜこの女…




けど…



くそおっ…!!

そっぽ向いた所も超絶カワイイぜ…!

親友を馬鹿にされた事への憤りと可愛いと思う気持ちが両方込み上げ、
何が何だか分からなくなり、俺はどうしていいのか分からず案山子のようにその場に呆然と立ち尽くした



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コメント

  1. ヒトカゲ君登場!
    彼のくれたお菓子は炎、岩、地面タイプにしか好かれない味だったのかも。
    フォッコ姫の夢がかなうのはもっと先になるかも。

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