Chapter9:サニーゴとの再会

「ピチューー!!
さっそく来てくれたんだね!!」

市役所にきた俺はサニーゴの強烈なハグに出迎えられた


く、よしやがれ……

"変な目"で見られるだろうが!
それにお前の体、岩肌がゴツゴツしてて死ぬほど痛いんだよ

力いっぱい抱きついてくるサニーゴを

俺は必死こいて振りほどき、地に這いつくばってゼェゼェ息を切らした

「くはっ……死ぬかと思ったぜ」


着いて早々とんだ歓迎のされ方だぜ

コイツらしいっちゃらしいが……もうちょっと遠慮してもらいたいな
見ろよ!周りにいる客とか、職員っぽいゼニガメたちが、珍妙な顔してこっちを見てやがる。

「ゴメンゴメン!つい嬉しくてさ

じゃあさっそく、きみの住民登録をしにいこっか!」

サニーゴはのっしのっし奥へ歩いていった

俺はそれを追い、二人でエレベーターに乗って最上階まで登った
するとガラス窓がビッシリ張られた"見晴らしのいい展望台のような空間"に出た。

「た、高えぇ~

ビーチやショッピングモールが小っさく見えるぜ!」

あまりの"眺めの良さ"に俺はつい見とれた

リゾートの街が一望できるとは、何て羨ましい職場なんだ!

「どうお?

ここが僕のフロア、市長室さっ!」

べっとりとガラスに張りつき、

景色を見ていた俺にサニーゴが「エッヘン」と偉そうにふんぞり返った

く、てめぇ!

いつもこんな素晴らしい景色を見ながら仕事してるくせに、
俺のチンケなツリーハウスなどで喜んでたのかよ!ある意味ショックだぜ!

「そんなコトないよ。

何故なら、市長のシゴトなんて退屈さ……
僕はいつかこの広い世界に出て、冒険家になりたいんだよ!」

サニーゴは海のずっと向こうを見て言った


冒険家……か。

確かに世界を旅するのって楽しそうだな
だけどよ、市長がそんなコト言ってて仕事になってんのか?と俺はふと思った

「サニーゴーッ!!」


突如カミナリのような怒鳴り声がきこえ、俺はギョッとして振り返った


でけぇ図体した強面のカメが、

おっかない顔して「ズドン!ズドン!」と迫ってきていた

「ひぃ~っ!誰なんだアンタは!!」


さっきのゼニガメたちとは迫力が違う……まるで怪獣(モンスター)のようだぜ

しかも、どことなくグランブル署長に似てやがる!

「誰だと!?冗談じゃねェ!!

オレは副所長の《カメックス》だ!そのクソガキの補佐だよ!」

ク、クソガキだとぉ~!?


カメックスは爆音のような足音を立てながらクソガキの前へと歩き、

大きくかがんでその顔を睨みつけたが、当の本人は「何さ!」と物怖じする様子もなさそうに睨み返した

「市長さんよォ~

今度は"お友達"を連れて夢語りかい!?
遊んでばっかいないで、ちったぁ仕事をしたらどうだ!?」

カメックスは今にも爆発しそうな剣幕だ


「はいはい。仕事ならしてますってー

このピチューが、新しく引っ越したいんだってさー?
今から彼の住民登録をしにいく所だから、そこをどいてくれるかなー?」

な…、何つー事を!!


恐る恐るカメックスの顔をチラッと見ると

こっちを「ぎろり!」と睨んでいて、俺はションベンちびりそうになった

「チィッ!

ならとっとと済ましてくるんだな!!」

カメックスはそれだけ言うと、ブツブツつぶやきながらエレベーターで下へ降りていった






「ぐふー。殺されるかと思ったぜ」


くそったれ……

あんな怪物がいるなんて聞いてないぞ

「驚かせちゃってゴメンね!

カメックスは怒りっぽくてカタブツだけど、すっごく頼りになるヤツなんだ。」

サニーゴは事も無げに言った


あのカメックス相手に全くびびらないとは図太い神経してるぜ……

俺だったら思わずヘコヘコしちまうのにな。

「こっちこっち!」とサニーゴに誘われて、俺は奥の部屋へ招き入れられた

そこはいかにもって感じの部屋で、お偉いさんが座りそうな椅子とデスクがポツンとあった。

サニーゴはのしのしとデスクの方へ走り、

引き出しの中を「あーでもないこーでもない」という感じに漁りだした

「あったよ!

この書類にきみの足型をスタンプすれば、手続き完了さ!」

手渡された紙には『住民票』と書かれていた


「ぐふう、

そのボロっちい紙にスタンプすればいいんだな?」

訝しむ俺にサニーゴは「そうさ!」と答えた


俺は便所サンダルを脱ぎ捨て、朱肉を踏んで足の裏を真っ赤に染めると

「かはーーーっ!」という掛け声とともにジャンプし、ド派手にスタンプしてやった

「オッケー!

これできみも《ウェイブタウン》の市民権を得たよ!」

は……?

たったこれだけか?えらくあっさり終わったな……

まぁいい……

これで晴れて《ウェイブタウン》の住民になれたワケだ
とうとうリザードンさんの呪縛ともオサラバだぜ!ぐふははは!!

「でよ、俺の『入学許可証』はいつ発行してくれるんだ?」


俺はさっそく切り出した

カプじいに奪われ、リザードンさんに再発行も拒ばれるという極悪コンボを食らい、
闇へと葬り去られた俺の入学許可証……

《シルヴァー学園》に入学するためには、どうしてもあれが必要なんだ。


「ウーン。それは僕にはできないな

今あげた住民票のコピーをとって、学園に郵送してみればどうかな?」

かはっ!郵送だと……

《シルヴァー学園》への入学は10日後だぞ!今から送って間に合うのかよ

「まぁ大丈夫じゃない?《シルヴァディ》って手が早いからさ」


シルヴァディ……

《シルヴァー学園》のトップに君臨してるヤツだ

頭がべらぼうに良く、全てをパーフェクトにこなす辣腕学園長だって聞いたことがある

今はそいつに委ねるしかないか……

「ちくしょう……

ポケットタウンを出てようやく苦悩から解放されると思ったのによ……」

俺は胃の痛みを感じ、ゲンナリしてきた


「ねえねえ!そういえばさ、ピチューってどこに泊まるの?

よかったら僕の家にきてもいいけど!」

サニーゴはウキウキした調子で言ってきた

この前、家に連れ込んでやったのがよっぽど嬉しかったようだな

「悪いが俺は、ミルタンクさんの宿屋に泊まる事になってんだ!

けど必ず遊びにいくからよ!」

俺の言葉を聞き、サニーゴは「OK!待ってるからさ」と満足してくれたようだった








「ぐはー……ようやく終わったぜ」


サニーゴと別れ、市役所を後にした俺は

あちこち放浪した挙句にビーチの脇にあるちんけな街道をうろついていた。

「くそったれ……

まさか郵送するのにこれほど手間がかかるとはな」

市役所で手に入れた『住民票のうつし』を郵送するため、郵便局へ行ったまではよかった


だが……

《シルヴァー学園》に『入学許可証』を再発行してもらうには
どうやら願書がなければダメだったらしい。メンドクセーったらありゃしないぜ

結局、スクール協会とかいう謎の場所へ行き、

さんざん待たされたあげくにやっと願書を手に入れて、再び郵便局へ行ったら
今度は俺が今住んでる場所の登録が必要ときやがった……

そりゃそうだ。

届け先がはっきりしなきゃ、向こうは俺に『入学許可証』を送って来れないからな

ミルタンクさんに事情を話し、

とりあえずペンション・カンナギを俺の仮の住所にしてもらったが
そのために再び市役所へ戻るはめになった……サニーゴといい感じに別れたのに、カッチョ悪いったらありゃしないぜ

で、また郵便局へ戻ってやっとこさ郵送は終わった……


やれるだけの事は全てやった……

後は向こうが『入学許可証』を送ってくるのを待つだけだぜ。

あっちこち"たらい回し"にされている間に、すっかり日が暮れちまったな







「チビのやつ……怒ってるだろうな」


チビを海水浴に連れていくって約束したのに、完全に予定が狂っちまった

まさかこれほど時間がかかるとは誤算だったぜ……

"謝罪の証"として、明日こそはたんまり遊んでやらなくちゃな。








「ウッ……」



唐突にションベンがしたくなった


だが、周囲を見渡しても『公衆便所』など見当たらない

リゾートの街だから便所ぐらいあるはずなのに、必要な時に限って見つかりゃしない

「く、止むを得ない……

こうなったらアレをやるしかねぇな」

俺は夜道をコソコソと徘徊し、適当な埠頭を見つけてジョボジョボと立ちションした。














ぐふぁ~……生き返るぜぇ~





「おい」


快楽に浸ってると、後ろから何者かに呼ばれた

振り返ると、そこには真っ赤なスカーフを巻いた得体のしれないガキがいた

う、何だてめぇは!

ションベンの最中に話しかけるんじゃねぇ!

「キサマ……

誰の許しを得てそこで立ちションをしている?」

そいつの言葉に俺は耳を疑った


許し……だと?

今、許しって言ったのかコイツ……?

馬鹿を言えよ……

立ちションするのに誰の許しがいるってんだ?お前こそ寝ぼけた事言ってんじゃねぇぞ!
俺は両手を口ん中へと突っ込み、アッカンベロベロバーしてやった

やつはしばらく黙って俺を睨んだ後、小さくため息をついた


「海を……

キサマの汚らわしいションベンで汚すんじゃない!」

そいつはそう叫ぶと、スカーフからゴソゴソと何かを取り出した

一枚の『葉っぱ』のようだった

「は、葉っぱ……?」


俺が"それ"に視線を奪われていると、

やつはいきなりダッシュで接近し、その『葉っぱ』を俺の鼻の前へと突き出した



ウッ……


『葉っぱ』の匂いを嗅いだ途端、目の前の景色がグラッと歪んだ


「オエ~。何だコリャ!吐きそうだぜ!!」


俺はたまらなくなり、地面に這いつくばった

クソッタレ!最低の気分だぜ。この野郎……一体何を嗅がせやがった!?

俺は朦朧とする意識の中、ゆっくり離れるやつの黒いハイカットスニーカーが見えた

まさか立ち去るつもりか……?

冗談じゃねぇ!!

ここまでされといて、おめおめと逃げられてたまるかよ!

俺は必死こいて体を起こし、逃げるやつの行方を追おうとした


だが……

やつは少し離れた場所で停止しており、
さながら『仮面ヒーロー』のようなポーズをとりながら、こっちを睨みつけていた。

俺は嫌な予感が走った


おい……まさか!

ウソだろ!?正気かてめぇ!!

「俺の名はヨーギラス……

キサマのような悪を倒すオトコさ!」

そう言い放った直後

やつは飛び上がり、俺の顔面めがけて強烈な『飛び蹴り』を食らわした

「ぶげはーーーーーっ!!」



畜生……

何だってんだよあの野郎は……

俺はただ埠頭で立ちションしてただけなのに……

それなのによ……何でこんな仕打ちを受けなくちゃならねぇんだ!

俺は吐き気と悪寒で目の前が真っ暗になり、ヨロヨロとふらついてその辺にあったドブに落ちた










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