Chapter15:学園行きの船"シルヴァレーヌ号"

ビーチ街の中心にある港は"学園行きの船"に乗り込まんとする大勢のポケモンでワイワイ賑わっていた
ここにいる全員が《シルヴァー学園》に行くために集まった新入生たちだ

ポケッ島だけでなく、見た事もないような"遠い国"から来たヤツも中にはいる…

俺は期待で胸が膨らんだ
とうとうこの日がやってきたんだ…





長かった…


おそろしく長い道のりだった……

消えた俺の『入学許可証』を取り戻すために忍び込んだ市役所で窓から落ち、
リザードンさんにこっぴどく怒られ、失意の中でサニーゴと出会い、ここウェイブタウンに引っ越してきた

だが、俺の災難はとことん続いた
ヨーギラスとか名乗る妙なクソガキに背後から襲われて
猛毒ハーブを嗅がされた上にドブに落とされ、危うく引っ越し初日からくたばる所だった

そんな時、魔法使いのニャオニクス姉弟が"不思議な魔術"で助けてくれた

それからサニーゴと修行したり、ピィとププリンを乗せたリザードンさんと再会したり…
色々あったが、みんなに助けられてどうにかここまで来れたんだ

そして今…
ミルタンクさんやニャオニクス姉弟やチビ助と別れ、ペンションを旅立った俺とピィとププリンは
"学園行きの船"に乗るため、高街の駅からリニアに乗って港にやってきた

「で、でけぇ…!しかも長ぇぞ!?」

波止場にどっしり停泊してあった"巨大な船"に俺たちは圧倒されそうになった

「あべべべ~!
何かポケモンみたいなカタチした船だね~」

ププリンがまた妙なこと言い出した

確かにまぁ…
青と白の半々で、胴体が長くて、船体の後ろに尾ヒレっぽい物がついてて
ポケモンに見えなくもないけどよ……

「何ボケてるの!?
どう見ても『ホエルオー』でしょあれは!」

ピィが俺の耳をギギィーッとめちゃくちゃ引っ張った

「う…あででで!何で俺だけ!!」

くそったれ!
着いた早々とんだ洗礼だぜ!

だがピィの言う通り、確かにこの船…
よくよく見るとクジラポケモン『ホエルオー』にそっくりだぜ

胴体から延びた"平べったい手みたいな部分"が階段になってるらしく、
新入生たちが次々にそこから船の中に入っていく所だった

その名も『ホエルオー号』って所か…グフフ

俺たちは今日、このホエルオー号に乗って《シルヴァー学園》へ出発するんだ
最高にワクワクするぜ!

「立派な船だよね。『シルヴァレーヌ号』って名前らしいよ」

水色のヌマウオみたいなポケモンがトコトコ歩いてきた
前にカフェ通りを巡った時に見かけた、"羅針盤"を持ってた男の子だった

は?
シルヴァ…今なんて言った?

「"シルヴァレーヌ号"さ
銀色のクジラという意味なんだって!」

ほえー
そいつは知らなかったぜ

「キミ達も新入生なんだよね
ボクはミズゴロウさ。お見知りおきを!」

おう、俺様はピチューだ!
こいつらは手下のピィとププリンだ。よろしくな

ミズゴロウはニッコリ笑った後「じゃ!ボク先いくね」と階段を登っていった

う~ん、フレンドリーで気のいい奴だ
あいつとはきっと仲良くなれそうな予感がするぜ!

「あべべ~。僕らも行こうよ~
こんな所で突っ立ってても仕方ないし!」

ププリンが風船のような体でポヨンポヨン跳ねてせかした
まぁそれもそうだな

くぅ~!!
とうとう船に乗り込む時が来たのかぁ~!
何だか興奮してきたぜ……

「ピチューーーーーーーーーーーーー!!」

ぐふっ!!


誰だ…?
俺の名を大声で叫びやがるのは…

いや、こんなタイミングで俺を呼び止めてくる奴ぁ
一人しか思いつかねえぜ!

振り返ると案の定、サニーゴが走ってきた

「はぁはぁ…っ
間に合ってよかったぁ~!」

サニーゴはよっぽど走ったのか額に汗かいて息も絶え絶えだった

お前…
まさか見送りに来たのか?

「もっちろんさ!僕たち友達じゃない?
本当はもっと早く来たかったけどさ、よその町の市長と会談で部屋にカンヅメにされてさぁ…
しょうがないから、窓からこっそり抜け出してきちゃったのさ!」

おいおい!そんなしていいのかよ
お前市長なんだろ!?

「いいっていいって♪
カメックスが何とかしてくれてるさ!」

サニーゴは嬉しそうに俺とピィとププリン、それぞれの手を握って回った

「行ってらっしゃい!三人とも、頑張って卒業するんだよ
僕も応援してるからさ!」

サニーゴはそう言うとウィンクし
「それじゃあねっ!」と嵐のように走り去っていった

最後まで元気なガキんちょだったぜ…

「…よーし!
そんじゃ気を取り直して船に乗り込むぞ!」

俺とピィとププリンは他の新入生たちに混じって階段を登った
一番上まで登り、"船の入り口"の前までくるとゴツい肉体をした乗組員に止められた

「待てッ!!ここから先は……"資格を持った者"だけが進める!」

筋肉隆々のこのゴツい門番はどうやら、俺たちが新入生だという事を証明しろと言ってるらしい

ピィが力づくで通ろうとしたが、
この門番とまともに戦ってもボコボコにされるのがオチだぜ
俺は急いでリュックを漁り、昨晩やっと届いた「それ」を取り出して門番に見せた

「おおーッ!
それはたしかに入学許可証!」

ゴツい門番は納得して「どうぞ通ってください!」と脇に退き、通してくれた
俺たちはあっさり船に入った

中は廊下になってて、あちこちで新入生たちがワイワイはしゃいでいた

「おっと!これを渡すのを忘れる所だった」

乗組員は俺たちを呼び止めると"部屋の鍵らしき物"を渡した
それには325と書かれていた

「ぐふう…俺らの部屋は325号室ってことか
さっそく探しにいくぜ!」

俺とピィとププリンは廊下で他の新入生たちとすれ違いながら
"自分の部屋"を探してまわった

途中"ドアが開いてる部屋"がいくつかあり、知り合ったばかりの新入生がテレビゲームして遊んでたり
ベッドの上でオスメス同士イチャイチャしてる光景が見えた

「あったぜ…」

俺たちはついに「325」と書かれたドアを見つけた

入ると明るく広い部屋があった
白いシーツのベッドとテーブルがあり、窓から海の光が反射していた

俺はリュックを床にぶん投げ、便所サンダルを脱いでベッドの上に飛び乗った

「うっひょー!!
こんな柔らけぇベッドは見た事がないぜ!」

ピィとププリンもズケズケと登ってきて
俺たちは天国にでもやってきたような気分で「ヒャッホーウ!」と跳ね回った



「ちょっと。」

突然背後から声がし、俺はギョッとして床に転がり落ちた

「かは…
誰だッ!?どこにいる!?」

俺は部屋を見回して"声の主"を見つけた

部屋の隅っこの椅子に、緑のドレスを着た"ネコの女の子"がちょこんと座ってて
膝の上に本を広げて読んでいた

きめ細かい灰色の毛並み、おしゃれな丸い帽子、フワッと跳ねた前髪、折りたたまれた耳、
スカートからのぞく短い足に"ピカピカの白い革靴"を履いていた

あ…あの時カフェにいたカワイコちゃんじゃねーか!!

「…あまりベッドを汚さないでもらえる?
私も使うんだから。」

女の子はくりっとした"紫色の瞳"でこっちを睨みつけながら不機嫌そうに言った
外見に似合わずその声はクールかつ冷淡だった

「う、そいつは悪かったな」

俺は口元をひくひく攣らせながら一応謝った

くそっ!
なんてこった…なんてこった……





カ、カワユイ…!!
前に見た時も思ったがハンパねー可愛らしさだ…!

"ネコの女の子"っていうとペンションにいたニャオニクスのこえー姉ちゃんもそうだったが
こっちは向こうよりだいぶ小柄で幼い感じだった

こんなプリティな子と一緒の部屋だと!?

うおはー!!
まるで夢のようだぜ!!

「俺の名はピチューだ!
よろしくな。こっちは下僕のピィとププリンだぜ」

俺は内心有頂天になりながら自己紹介した
両脇でピィとププリンが「誰が下僕よ!」だの「あべべ~!ひど~い」だのピーピー喚いてるが気にしねえ!

「私はニャスパー。
一応ルームメイトという事になるのかな?」

ニャスパーは本をパタンと閉じると
椅子から降り、灰色の毛をなびかせて短い足でゆっくりこっちへ歩いてきた

「ハッキリ言うけど私、あなたたちが何しようと興味ないから
でも目的地に着くまでは同じ部屋で過ごすんだから、お互い嫌な思いをしないようにエチケットは弁えて頂戴。
私、デリケートなんだから」

ニャスパーは俺の顔を見てそう言い放つと
踵を返し、さっきの椅子に腰かけてまた本を読みはじめた

「う、うう…」

何かめちゃくちゃ冷たいぞこの女…
これから一緒に学園で学ぼうって相手に対する態度がそれかよ…

見た目は天使のようにキュートだが、性格的にはあんま付き合いたくないタイプだぜ…!



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コメント

  1. 態度が冷たいニャスパーだけど、これからどうやって仲良くなるのか楽しみです。
    この船旅が無事で終わらないとわかるけど、祈っています。

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